開発経緯
開発当初、イクスブルー社のサーベイ部門は既存の他社製USVを購入して、トンガ諸島の主要な調査契約に入札したいと考えていました。
当時、市場で入手可能なものをベンチマークとしましたが、海上試験においてUSVの運用範囲、持続時間、速度および荒天時の取り扱いに関する問題が浮き彫りになりました。そのころ、イクスブルー社は自国にえい航式カタマランを提供した直後でした。その経験と、海上試験結果を基にDriXというASVを自社開発することにしました。
1年足らずの期間でDriXは海上での操業を開始し、その結果、我々はトンガ島海底測量契約を勝ち取ることができました。
DriXは当初、自社の造船部門や測量部門で利用するために開発された民間向け商品でしたが、機敏に反応したマーケットの要望に応じ、現在はエネルギーおよび科学産業向け、そして防衛分野でも運用されています。
DriXの構造
DriXは、どんなミッションにおいても、最良のデータを取得できるよう設計されています。
目的達成のため、最初に注目した点はセンサー自体の傾斜をできるだけ許容誤差内に収めるべく海上での動きを極力滑らかにすることでした。 設計当初から完全無人による運用を考えており、伝統的なV字型の船体に囚われる必要はないと考えていました。波が高い海域下でもゴンドラ内のペイロードが安定したままで走行可能なデザインとし、その結果、燃料消費量を最小にすることができました。
次に注目した点は、最良のデータ収集環境を実現することでした。これは、センサー周りのエアレーション、ノイズ、振動との闘いを意味します。
DriXの最適化された形状により、速度は最大14ノットまでに達し、24時間から10日間持続運用可能です。
そして非常にコンパクトなため、限定的なノイズしか発生せず、多くの場合、海面付近で発生する環境ノイズより低い結果となっています。
結果として、DriXは風浪階級5(波高:2.5-4.0m)の状態で動作し、あらゆる種類のセンサーにとって優れたデータ収集環境を提供します。
昇降装置と輸送方法
世界中にDriXを提供するために、イクスブルー社造船部門は、輸送用の特殊な40フィートの開放型コンテナ及び船舶からDriXを配備するための投入揚収システムをデザインしました。
これは吊下装置、クレイドルおよび保護シェルターとして機能し、DriXをDDS(DriX投入揚収システム)内に格納した状態で全てのメンテナンスを行うことができます。 船舶からDriXを海へ投入する際は、船舶のダビット、クレーンまたはAフレームを使用することができます。
さらに、DDSにはDriXに燃料を補給するための燃料タンクを装備しています。
図2 DriX がDDSに収納された状態とDrix/DDS専用輸送コンテナ
汎用性を高めるために、ユニバーサルゴンドラに標準搭載されているものに加え、あらゆる種類のペイロードに適応するようにゴンドラ(最大3m x 2m)をカスタマイズすることができ、DriXに新しいミッション能力をもたらします。
制御
DriXはミッションソフトウェア(Quinsy®または他のミッションソフトウェア)に設定したミッション計画に沿って自律的にミッションを実行します。
また、DriXが海上にいる間、ミッションをリアルタイムで変更することもできます。
操縦者に関しては、1名のパイロット/整備士+1名(12時間シフト)又は2名のサーベイヤー(24時間シフト)といった体制で任務を遂行することができます。
将来性
DriXを1つ運用することで、あらゆる地上資産の機能が大幅に拡張され、無人で効率よく作業を行うことができます。
DriXは、起動と復旧からミッションの実行まで、ヒューマンファクターを欠くことを基本として設計されています。
高速で耐久・耐航能力を有し、安全に低コストで運用することができるため、水上ドローンの業界ゲームチェンジャーであり、海底測位から測量任務に至るまで、すでに多くの成功した実績があります。
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水中ナビゲーション
水中を航行する上で、慣性航法に代わるステルスナビゲーションシステムは、未だ見出されていません。慣性航法の原則は、ジャイロスコープによって測定された角速度を積分することにより姿勢および方位を求め、加速度計によって測定された直線加速度を積分し速度を算出し、速度を積分することで距離(位置)を求めることにあります。しかし、ジャイロスコープおよび加速度計は完全ではなく、それら測定値の小さな誤差は、同時に積分され精度に影響を及ぼします。
従い、慣性航法誤差は、時間とともに増大します。
航行上の誤差を許容限度内に維持するために、外部からの位置情報により位置を更新することが必要です。位置決定には、GNSS信号や天測などが利用されますが、これらの方法が利便性の高いものであっても、水中での利用に適しません。水中においては無線信号が極端に減衰し、当然ながら水中から天体を見ることができないためです。長時間潜水し続けるためには、位置測位を行う間隔をできるだけ長くすることが非常に重要となります。
重要なパラメータは位置のみでなく、3方向の速度成分、姿勢および方位が必要となります。これらのパラメータは高い精度を要求され、短期間で発生するエラーは非常に安定的でなければなりません。またこれらのパラメータの不確実性を理解することも同じように重要と言えます。従って、慣性航法システムは航海のためのパラメータだけでなく、信頼性を実証するために関連する不確実性も計算しなければなりません。
光ファイバージャイロスコープ技術
光ファイバージャイロスコープは、「A」に示す光ファイバーを巻いたループに逆行する光を互いに干渉させるよう構成されています(図 FOG原理 参照)。発光された入射光を2分岐し、コイルの中を反対方向に進行させ、再び合成(干渉)させます。サニャック効果として知られる相対論的原理により、コイルが回転しているとき、2方向に進行した光の光路長に差が生まれます。ここで生じる位相差は、角速度Ωと、コイル「A」の径に比例します。 「A」周りのファイバーコイル巻数が多いほど(またはファイバーコイルの直径が大きいほど)光路長が長くなり位相差が大きくなるため、FOG感度を良くすることができます。
高性能システムでは、コイルの直径が約200mmとなり、光ファイバーが数キロメートル以上使用されます。 FOGの性能は主に、ファイバーコイルと、多機能IOC、そしてカプラー、ポラライザ、モジュレーターの3つの機能を実行する光学部品に左右されます。
イクスブルー社では、ファイバーの製造、コイルを巻き付け、多機能IOCの製造に至るまで自社工場で製造しており、こうした社内の縦のつながりによって、様々な分野のエキスパートが互いに議論し合える風通しの良い環境となっています。
長距離潜水のために
このFOG技術に基づいて、イクスブルー社は潜水艦ナビゲーションに適した慣性航法装置シリーズを開発しました。2008年にはじまったMARINS M5(24時間あたり1海里の位置ドリフト)は、その後、FOGセンサーおよびアルゴリズムの改善により、72時間(3日)、96時間(4日)、120時間(5日)および360時間(15日)で位置ドリフト1海里となる性能を有する慣性航法装置の開発に成功しました。
これらのユニットは、3つのジャイロスコープおよび3つの加速度計を用いた最小限のセンサー構成となっています。特徴は、システム内の電子機器の数を最小にし、ナビゲーションシステムの信頼性を向上させていることです。最新のセンサー技術において、センサーはシステム全体の信頼性に直結し、MTBFを決める重要な要素となります。
イクスブルー社は、光ファイバージャイロスコープ技術を他の追随を許さないレベルに押し上げ、信頼性、性能、静音性の観点から、潜水艦ナビゲーションに満足するソリューションをもたらしました。
関連リンク:
・Marins(マリンス)カタログ
・イクスブルー社 海上防衛製品の紹介動画
・光ファイバージャイロスコープ技術の紹介動画